ABS樹脂のめっきについて
ABS樹脂のめっきは、金属からの置き換えによる製品の軽量化やコスト削減など、様々なメリットがあります。
ABS樹脂をはじめとしたプラスチックは電気を通さない物質(絶縁体)です。
このため、「めっきができないのでは」と思われることもありますが、電気を使わない「無電解めっき」によってめっきができます。
汎用プラスチックであるABS樹脂をめっきすることで、導電性や耐食性などの機能の他、金属の光沢感を活かした美観を与えることができるため、様々な用途で採用されています。
今回はABS樹脂へのめっきについて、ABS樹脂の特徴やめっき処理をする目的、用途、そしてプラスチックめっき技術の基礎知識を塚田理研が紹介します。
ABS樹脂とは(特徴について)
ABS樹脂は、アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)という3つのモノマーを合成して作られているプラスチックです。
加熱すると柔らかくなる熱可塑性樹脂で、耐熱性や耐衝撃性、光沢性、加工性などの機械的特徴のバランスが良い素材です。
汎用的なプラスチックとして一般的によく使われている素材で、私たちの身の回りにもよく使われている身近な存在です。
防弾レンズなどに使われるポリカーボネートといったプラスチックと比べると、ABS樹脂は特出した性質はありませんが、機械的特徴のバランスがよく、加工しやすく低コストなため、幅広い分野で使用されています。
ABS樹脂の素材の特徴について
ABS樹脂の特徴は以下の通りです。
- 強固で熱にも比較的強い
- 耐衝撃性に優れる
- 加工性が良い
A・B・Sの3つの合成比率の調整や、強化ABS樹脂やACS樹脂のように一部の成分を変更することで、さまざまな機能性の変更も可能です。
一方で、紫外線や有機溶剤には弱く、燃えやすいというデメリットがあります。
紫外線による劣化が起こりやすいので、屋外で使用する場合は製品にめっき処理をし、耐候性を向上させることをおすすめします。
軽量化やコスト削減など、メリットが多い分、デメリットを補うことができれば、より多くの分野での利用が見込まれる可能性の大きな素材と言えるでしょう。
ABS樹脂はプラスチックの中でもめっき処理がしやすいため、表面加工を施すことでそのデメリットの解消や、加飾性など新しい価値を製品に付与することができます。
当社では、ABS樹脂のほか機能性を向上した耐熱ABS樹脂、難燃性ABS樹脂など、様々な樹脂を取り扱っており、量産実績があります。
ご要望の品質水準に適した材質選定のご相談の他、樹脂メーカーとの繋がりも強いため、ABS樹脂の材料開発のご相談も可能ですので、お気軽にご相談ください。
ABS樹脂にめっきをする目的や用途
ABS樹脂をめっきした製品は既に多くの分野で利用されています。
重たい金属が主流だった水回りの金具や家のドアノブなどにはABS樹脂が使われており、車のフロントグリルやドアパネルなどの車外装・車内装部品、パソコンのフレームもその一例です。
めっきには、装飾やデザインを目的とした場合と、耐熱性や強度・耐候性といった機能向上を目的とした場合があり、ABS樹脂の活用の場を広げる一翼を担っています。
ABS樹脂などのプラスチックめっきとは?【基礎知識】
プラスチックめっきとは、ABS樹脂などのプラスチックにめっきを施す技術のことです。
めっきとは、金属の膜で製品を覆う事です。
金属素材では電気を流して、表面に金属を析出させる「電気めっき」が一般的ですが、絶縁体であるABS樹脂には「電気めっき」ができません。
このため、プラスチックやセラミックなどの絶縁体には、化学反応を利用しためっき方法「無電解めっき」にてめっき処理を行います。
ここでは、プラスチックめっきのプロセスを具体的にご紹介します。
1.脱脂
脱脂とは、ABS樹脂の表面を洗浄する工程です。
通常、樹脂表面には手で触った油分や、ほこりやごみ、成形の型離れを良くする薬品などが付着しているため、めっき処理が適切にできません。
次工程はもちろん、めっきの密着不良を防ぐためにも重要な事前処理です。
一般にABS樹脂では、界面活性剤をいれたアルカリ脱脂を行っております。
2.エッチング
エッチングとは、平らな表面を凹凸にする作業で、付着させた金属をつなぎとめるアンカーの役割があるためプラスチックめっきには欠かせない工程です。
エッチング手法としては、細かい砂をぶつけて物理的に表面を削る方法と、薬品でプラスチック表面を溶かす化学的な方法が挙げられます。
ABS樹脂の場合はクロム酸と硫酸の混合溶液でブタジエン(B)を酸化溶解させることが一般的です。
これにより次の工程の触媒や金属の付着が強化されます。
一般的にエッチング液には六価クロムが使用されていますが、環境への取り組みにより、六価クロムの使用が規制される可能性があります。
当社では環境問題に対応するエッチング工法として、過マンガン酸、ナノバブルを使用したオゾン水によるエッチングなど、六価クロムを使用しない技術がございます。
詳しくは当社までお問い合わせください。
3.触媒付与・活性化
触媒は化学反応を促進するための物質です。
プラスチックめっきにはパラジウムという貴金属が触媒として使われます。
ABS樹脂の場合は、スズとパラジウムの混合粒子(コロイド)をエッチングした素材に付与します。
その後、スズのみを除去する活性化を行うことで、凸凹表面に金属化したパラジウムが付着した状態を作り出します。
尚、この方法はキャタリスト・アクセラレーター法と呼ばれています。
4.無電解めっき
無電解めっきとは、電気を使わずに化学反応を利用してめっきを行う方法です。
絶縁体であるABS樹脂には電気めっきができないため、ABS樹脂ではパラジウムを触媒として使った化学反応(酸化還元反応)を利用することで素材表面に金属を析出させます。
電気めっきと比べると均一な膜の形成ができ、複雑な形状にもめっきができる点が特徴です。
電気部品など導電性を優先した製品を除き、その他の製品ではめっき液の管理のしやすさから、無電解ニッケルめっきが主に使われています。
5.目的に合わせた電気めっき(後処理)
無電解めっき後は、プラスチック表面に導電性が付与されるため、電気めっきが可能となります。
ただし、いきなり強力な電気を流すと金属皮膜がはがれてしまう場合があるため、ストライクという弱い電流で薄く電気めっき処理を行い、最終的な表面めっき処理をします。
電気めっきでは、用途に合わせてニッケル、銅、クロム、金などをめっきさせることで耐熱性、耐腐食性、デザインや光沢などの付加価値をABS樹脂の製品に付与することができます。
尚、電気めっきでは、金属の析出にムラが発生しやすいため、形状デザインに合わせた条件の調整など技術と経験が必要な工程となります。
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